「影をつかまえるフォトグラムワークショップ」レポート
去る2011年5月29日(日)神奈川県立近代美術館・葉山館にて『モホイ=ナジ/インモーション』展関連企画として、「影をつかまえるフォトグラムワークショップ」を行いました。
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会期中の「視覚の実験室 モホイ・ナジ/インモーション」展との関連企画として行われ、展覧会とワークショップの「つくる」・「みる」活動を通してより深く参加者の方々に作品を味わってもらえる機会となりました。
このワークショップの特徴は、
○普段の日常生活にある素材の影を撮影することで、身近なところにある「美しさ」を再認識できること。
○特別な技術や環境を必要とせず、小さい子からお年配の方まで参加できること。
○感度の低い感光紙(コピアート)を用いることで、光と影、時間などを意識するだけでなく、目で身体で「映像」を体験できること
主に以上の3点です。
参加者は、約30名。
ワークショップの時間は午前10時~午後4時。 当日はあいにくの雨で、準備していたワークショップの進行プランも、大幅の見直しとなりました。
前日の美術館閉館後から、美術館スタッフ、ワークショップスタッフ、共に緊急の打ち合わせを行い新しいプランを考える事になりました。
その甲斐もあり、当日は雨にも関わらず、意欲的に制作を行う参加者の熱意もあり、充実した時間になりました。
以下は詳しいワークショップの内容です。( )内は活動時間
1:自己紹介・活動紹介(10:00~10:10)
はじめに、ワークショップスタッフの自己紹介を行った。
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一日の流れを説明し、「今日は、カメラを使わないで写真を撮るよ。」という言葉に驚いていた参加者多数。 「では、実際につくってみよう!」ということで、コピアートペーパーを配り、「自分の手」と所持品をモチーフに制作を開始。
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露光時間中は、ワークショップに参加してくれた皆さんから簡単な自己紹介、名前と好きなものを発表した。
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2:モホイ・ナジ展みる①(10:10~10:50)
今回は、開催されている企画展との関連ワークショップ。 まず始めに、「ナジの作品を見に行こう!」と展覧会へ。
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モホイ・ナジの様々な実験的な試みを一望しながら、キネティック彫刻《ライト・スペース・モデュレータ》が動く時間になり、展示室へ。光と影が時間と共に揺らめきながら変化していく空間を味わった。
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講堂に戻り、展覧会学芸員、三本松さんからのお話をいただいた。 作品の時代背景や、構成主義、そして「光」を素材として作品制作を行っていたことなどが伝えられた。
講堂の入り口には、自己紹介の時に制作した作品が壁に展示。
自分たちで制作した作品を鑑賞した。
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自分たちの持ってきた素材の写り方(透明なもの、不透明なもの)やシャープに映っているものとそうでないものの差、金属の素材の反射などが話題となった。また、「自分の作品には白がない!」と、レストコーナーの展示作品『呼吸する風―庭』と参加者の作品の色の違いも指摘された。
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「どうしてかな?」と参加者の皆で考え意見を出し合う中で、「光の量が違うんじゃないか?」「強い光でつくったのかも?」という意見が出た。室内で制作した参加者の作品と、野外で撮影した私の作品を比べた時、作品の色の幅(階調)が異なることに気がついた。「沢山の光が当たると色は白くなる、外の光は室内よりも強いので、室内よりも短い露光時間で撮影が出来る」と確認し、いよいよ制作に入る。
3:制作①(11:15~12:15)
参加者は、美術館の周りを散策したり、持ってきた素材の組み合わせを工夫したりしながら制作を行った。 あいにくの雨でなかなか外へ行く参加者は少ないのではないかという予想に反して、積極的に外へ行く参加者が多かった。硬質カードケースを使い、その中にコピアートペーパーを挟むと水滴や雨も撮影することが出来た。室内でゆっくりと作品をつくる参加者は、デスクライトや、クリップ式の電球の光源の角度などを工夫し、素材の影をうまくつくり作品を制作していた。また、撮影した作品は随時、部屋の壁面に展示し、参加者の工夫やアイデアが見られる機会を多くした。
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4:ランチタイム(12:15~13:15)
このワークショップで出会った参加者同士が円になり、作品について語り合ったり、素材を自主的に集めに行くなどの時間になった。
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5:葉山(素材)集め+巨大フォトグラムの制作(13:15~14:15)+制作②(14:15~15:15)
お腹もいっぱいになり午後の活動のスタート。午前中の制作を経て、コピアートの特性や素材の写り方を把握した参加者。「次は美術館の周りを散策し、参加者全員で素材を集めに行こう!」と呼びかけ。ただ集めるだけでなく、90センチ×180センチの巨大フォトグラムを2枚共同制作することを伝え、素材を集めることに。美術館の外に出るやいなや、普段はあまり気にもとめない足下に落ちている石ころや葉の形、海岸に落ちている漂流物などを袋にどんどん入れる小学生の参加者。それに負けじと海藻やシーグラスを集める大人の参加者も。
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そして皆が拾ってきた素材を一箇所に置き、制作に使いたいものを選び、巨大フォトグラムの制作がスタート。素材を置く、光源を持ち露光する等協力しじっくり撮影すること約15分。参加者が交代交代でアイロンを用いて現像していくと、じわじわと浮かび上がる「葉山のかたち」
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完成した作品を部屋の正面に展示をし、午後の制作をスタート。ノウハウが理解できた参加者の制作意欲は尽きることなく、自分の作品制作を追求した。
は
共同制作作品「葉山のかたち」
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6:休憩~作品鑑賞会(15:15~15:35)
自分が制作した作品を参加者全員で鑑賞した。 制作の時に工夫したことや面白かったこと、1日の感想などを一人ずつ聞いた。
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「一枚の紙の中に、光源を使って強い光を当て昼間を表した部分と、遮光して光が当たらない場所をつくった」、「透明硬質カードケースを使い、葉山の波を撮影した」、「雨だったけど外に出て作品をつくることはとても楽しかった」、「素材をただ置いて使うのではなく、ちぎったり、分解したりして撮影した」、「みんなの作品を見てまねをしてみた」、「初めは音のイメージで制作していたのだけれど、素材をいろいろ探していたら楽譜を思いついた」など沢山のエピソードが語られた。
7:モホイ・ナジ展みる②(15:35~15:55)
午前中にみた企画展をもう一度みる。制作を体験したこともあり、フォトグラムの作品をじっくり見ている参加者が多くいた。
「初めは、展覧会の作品をパーッと見るだけだったけれど、ワークショップを終えて、ナジは、光とか影とかに意識を向けて制作を楽しんでいたように感じます。」や「つくったことでなんとなく作者の考えていることが分かったような気がする」、「いろいろと実験を繰り返していたのだと思う」などの意見が出た。
また5歳の男の子がワークショップを終え、自分の作品について参加者の皆に語った後、展示室に入るやいなや、ナジの作品の前で何かを伝えようと必死になっている姿があった。
8:1日のまとめ(15:55~16:00)
「みる」、「つくる」、「みる」、「つくる」…の活動を重ねたことで、参加者の中に光と影、時間についての一つの視点が実感を通して生まれているように感じられた。それは、参加者の「時間や光の加減を、意図的に作品に反映させ制作をしている」という言葉を聞いた時だ。
自らの手を動かし、頭を使って経験した事があって得られた「まなざし」を見た気がした。
その後共同制作で制作した作品は展示され、来場者を楽しませた。
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最後になりましたが、今回のワークショップを行うにあたり、足下の悪い中参加して下さった皆様、お世話になった神奈川県立近代美術館・葉山館の館長さんを始め、企画に0から一緒につくりあげて下さった松尾さん、鈴木さんに深く御礼を申し上げます。ありがとうございました。
共同制作展示キャプション
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■WS.DATA
日時:5 月29 日( 日) 午前10 時ー午後4 時 天候:雨 会場:神奈川県立近代美術館 葉山 講堂と中庭、および一色海岸 スタッフ:浅見俊哉・柿本貴志・小宮貴史・高貫結実乃 記録映像:浅沼奨 対象:子ども( 小学生以上) から大人まで 定員: 25 名( 事前申込。応募多数の場合は抽選) 参加費:900 円( 材料費、保険代など)
●フォトグラムワークショップ最新情報
2011年9月24日(土) DIC川村記念美術館にて「影をつかまえる」フォトグラムワークショップ開催
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