東京国立近代美術館で2011年に開催したレクチャー+ワークショップ 「フォトグラムワークショップ―影で描こう!私の世界―」レポート
このワークショップは、ジアゾ感光紙「コピアート」を用いてフォトグラムを撮影するものです。
2011年5月21日(土)。
今回の企画は、東京国立近代美術館の「ボランティアスタッフ・フォローアップ研修」の一環として企画されたもので、作品制作の研修は初めてです。
参加者は約40名。スタッフは私を含め4人です。
心配していた天気は晴天で少し日差しが強いくらいでした。
今回のワークショップの目的は、
①:フォトグラムの制作体験を通して、日頃のガイド活動にいかすこと。 ②:2011年7月に予定されている、小学校1年生~4年生対象の「夏休みこども美術館」にいかすこと。おまけで美術教育の現場の雰囲気も味わえたらということでした。
以上2点を主な目的として美術館側が設定していることから、私からは、今回のワークショップで
この「フォトグラムワークショップ―影で描こう!私の世界―」で体験できることを主に2点明記させていただき、ワークショップを行う事にしました。
Ⅰ:身近な素材が作品制作の素材になり、「アイデア・美しいものは身近にある!」ということ。
Ⅱ:露光時間、熱による現像をすることで「映像」を身体で体験できるということ。 時間は10:00~12:30。
主な活動内容は以下の通りです。( )内は所要時間。
10:00 ●自己紹介(5)
初めに自己紹介をさせていただきました。
10:05 ●美術教育の話(10) ・教科の時間数や現場で行っている実践の紹介をさせていただきました。
10:15 ●WSの紹介(20) ・今日のスケジュールについて ・露光時間について ・素材について ・現像について
はじめて扱う感光紙の特徴を体験してもらうために、一枚作品をつくってもらいました。 参加者の方には、事前に形の面白いものを持ってきて下さいとアナウンスさせていただいたのでみなさんそれぞれ宿題をやってきてくれました。
(身につけているものや持っているものを感光紙の上に置いてもらいます。)
(野菜を切ったものを持ってきてくれた方も)
窓側の場所と壁側の場所では、窓側の方が光が強い為、露光は短い時間で済みます。
自分で持ってきたものを置いて露光の様子(感光紙の色が次第に黄色から白に変わる)をじーっと見ていると普段当たり前にある光について意識が向く時間です。
10:35 ●素材を探す(15)→制作(50) 美術館の周りをまわり、素材を集めたり影を探す。
木漏れ日をフレームに入れて露光
木漏れ日と自分の身体をフレーミング
通路に入り込む光を採取
椅子と履いている靴で影を構成。
外では、室内よりもさらに光が強い為、露光時間は短くて済みます。
遮光版を手に影を映して撮影場所を決めていきます。この日は5秒~10秒程でした。
現像はアイロンの熱で行います。像が現れる瞬間はワクワクします。歓声が上がります。
出来た作品を置くルールをつくり、随時作品を鑑賞できる機会をつくりました。
これは「つくる」と「みる」活動をリンクさせるためです。
様々な露光時間による色の濃淡、素材の特性や配置や重ね方など、一人ひとりの工夫が集まり、沢山のアイデアがそこに現れます。
また、美術館作品鑑賞ナビゲートのプロの方たちなので、最後の鑑賞会を待たずに、作品解説や対話による鑑賞もリアルタイムで繰り広げられました。
11:50 ●鑑賞会(20) 鑑賞会では、今回のワークショップを通して出来た作品を主として、考えたことや感じたことを伝えあいました。
鑑賞会では、とても勉強になる意見が沢山出ました。
「私は、作品制作を通して、なかなか自分の思うように撮影出来なかった。作家は、何回も何回もあきらめずに制作をしたことが予想できました。」
「日焼けをして、私自身が感光紙になってしまいました。」
「間を意識して作品を制作しました。他の人の作品から発想しました。」
「野外と室内の光の差が体験できた。自分には野外の露光スピードは速くて慌ただしかったので、室内でゆっくり作品制作を行いました。」
12:10 ●活動のまとめ(20)
『呼吸する風―庭』 2007年制作 594mm×420mm (c)Shunya.Asami
最後に『呼吸する風―庭』という私の作品を観ていただきました。
「まるで計算されたような光と影の配置ですね。」といった声がありました。
ズバリ!です。自宅の庭に流れる風をモチーフに撮影をしていて、初めは影の部分が多く、あまり面白い作品ではないと思いました。
そこで、植木を剪定し、光を多く感光紙に当てられるよう工夫しました。これにより、感光紙から遠い場所にある葉が風で揺らめく像をはっきり捉えることに成功しました。
沢山の失敗と工夫が作品制作にはあり、ただ単に撮影したものだけが作品ではなく、作品にこめた意図から人工的に画面をつくっている場合もあることを作品制作を体験したことで参加者の方に伝わったような気がしました。
あっという間に皆さんとの楽しい時間が過ぎ、お別れの時間になりました。
今回のワークショップでは、参加者の皆さんの「こんな作品がつくりたい」というイメージを具現化するバイタリティと、発想、工夫力に、とても感動しました。
最後になりましたが、今回の企画でお世話になった国立近代美術館の一條様、藤田様をはじめボランティアスタッフの皆さまに深く御礼申し上げます。
ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
追記:
東京国立近代美術館ニュース「現代の眼」591号(2011-2012/12-1月号)に昨年(2011年)5月にフォトグラムのWSをさせていただいたその後のガイドスタッフの方の取り組みが掲載されました。
一條さんの文章にもあるように、私も、「みること」と「つくること」は子どもたちにとって分けられているものではなく自由に横断するものであると感じます。
だからこそ、それを自然に行える環境をつくることを工夫することもワークショップをつくる上でとても大切です。
私は、ワークショップを通して学校現場に生かせるアイデアをもらったり、学校現場での工夫がワークショップに生きたりするので、毎回どんな発見があるのか楽しみです。
今後も「みる」「つくる」の相互の関係を深めつつ、充実したプログラムを展開したいです。
■WS.DATA
日時:5 月21 日( 土) 午前10 時ー12時半 天候:晴 会場:国立近代美術館 講堂と中庭 スタッフ:浅見俊哉・柿本貴志・小宮貴史・高貫結実乃 対象:美術館ナビゲートスタッフ 定員: 40名
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