去る2018年7/5-8/30
埼玉県、東浦和のギャラリーPepinで新作個展『うまれたてのまなざし-Affordance Inspiration-』を開催しました。
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個展を振り返り、制作について、個展の開催、関連企画の実施についてレポートします。
今回の個展は、ギャラリーのオーナーの小林さんと打ち合わせを重ね実現しました。
個展をするにあたり、2017年8月には宮城県閖上地区での私の制作現場に立ち会ってもらい、その制作の様子や制作において大切にしている考えを共有しました。
その時の制作は閖上地区の遺失物たちの影を構成しフォトグラムの作品にする制作をしましたが、2018年に入り、改めて打ち合わせをした時、2013年頃から制作をしている『網膜の像』シリーズに注目いただき、その作品シリーズでの個展のアイデアにまとまりました。
今回発表した展示作品『網膜の像』シリーズは、実際に目で見えている像とカメラで同じ時間光を捉えた像の差異に興味を持ったことから制作が始まりました。動きながら見える景色はブレずに見えるのに、同じ動きをした時のカメラが捉える景色はブレて何が何だか分かりません。そこで、露光時間を「まばたきからまばたきの時間」に設定し、自分の目が開いている時間分だけシャッターが開き、露光されて得られる像を集めようと試みました。通常の視覚で得られる運動の像とカメラを用いたそれのズレに関心を持った作者が2013年から実験的に制作を続けています。
そうして集まっていった写真を自分でどういったものなのか理解しようとしている際に出会ったのがジェームズ・ギブソンの『生態学的視覚論』です。中でも、環境が動物に対して与える「意味」であるアフォーダンス(affordance)の概念に大きなインスピレーションを受け、今回の個展のタイトル『うまれたてのまなざし-Affordance Inspiration-』にも反映しました。
制作は、約10000枚の網膜の像シリーズの写真を1から見直し、作品のセレクトに入りました。
その時、大きく2つのカテゴリーに写真が分けられることに気づき、個展会場の構成にもこの2つのカテゴリーを軸に作品の展示を行いました。
1つ目は、「玄関」を開ける
毎朝、私たちは、玄関を開けて新しい朝の光に包まれる時、ほんの数秒、目が世界を捉える働き(目が強い光にくらみだんだん見えてくる)を経験しています。その時のイメージがこの個展シリーズの始まりにふさわしいと感じ、実際に玄関を出て撮影した像、トンネルから出て見える景色、草むらをかき分けて現れた川などの像を構成しました。
セクション1「玄関を開ける」作品イメージ(6sなどの数字は露光時間を表す)
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『5s(光の庭 Light garden 2018)』
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『6s(窓景 Window view 2018)』
2つ目は、「光の思考」
この方法で撮影を進めていくと、自分でも驚くほど多くのことを発見することができました。
この作品シリーズの核となるコンセプトは、「光の情報によるものの再認知」。
そのコンセプトを実感する転機となったのは2014年に初めて訪れた宮城県閖上地区での撮影でした。その場所は2011年の東日本大震災により大きな被害を受けた地域であり、建物もほとんど残されていない荒野といっても良い状況。その中で、この方法で撮影した像には、草むらの中で乱舞する光が写っていました。私は「この光ははなんだろう?」と近寄ってみると、おそらくその地域で使われていた、スプーンやフォーク、鍋や食器といった金属や陶器が太陽光を反射して写り込んだものだったことが分かりました。通常の視覚では草むらの中に隠れて見えないそれらが、この撮影方法では強い光として映り込み、その像を見て私は、この場所に多くの命が生活していたことを改めて強く実感しました。光による像が、人々の生活をしていた情報を投げかけ、改めてその土地のことを考える思考につながる体験は、この作品シリーズの核とも言える体験です。
そのことを作品を見に来てくれた人とも共有したいと思い、「光の思考」とし、まとめました。
セクション2「光の思考」作品イメージ(6sなどの数字は露光時間を表す)
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『3s(祈りの土地 Field of Prayer 2014)』
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『6s(祈りの土地 Field of Prayer 2014)』
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展示作品の目録:全部で12点の作品を展示した
今回の個展にあたり、私がこの作品シリーズを始めた直後ぐらいから作品を見ていただき、いろいろな言葉をくださったnegriさんに、改めてテキストを書いていただいた。
作品集の冒頭テキスト、個展の会場には作品鑑賞のためのガイドのテキストを展示しました。今回の展示作品は特に抽象的な概念と不明確なヴィジュアルで構成されているので、そのコンセプトやイメージを言葉に置き換えていただき、来場者の方とも作品を共有する1つの手立てとなりました。
また、関連企画として、対談イベントも実施。網膜の像のシリーズだけでなく、私のフォトグラム、ワークショップの仕事にまで言及し、それぞれの独自性と共通点をつなぐとても刺激的な機会となりました。約3時間にわたる対談となりましたが、約10名の参加者の方と充実した時間となりました。
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作品集「うまれたてのまなざし」限定300部で制作
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作品集に寄稿していただいたnegriさんのテキスト
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negriさんのテキストを展示
作品展示空間イメージ
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今年は特に酷暑の中、個展に足を運んでいただいた方に改めて深く御礼申し上げます。
また、作品を暖かく見つめてくださるnegriさん、個展の機会を与えてくれたギャラリーの小林さんにもこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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うまれたてのまなざし
ー Affordance Inspiration ー
浅見俊哉 作品展
Shunya ASAMI Exhibition
2018/7/5(thu) ~ 8/30(thu)
木曜日限定 12:00 ~ 18:0O OPEN
Gallery Pepin
〒336-0922埼玉県さいたま市緑区大牧1470-10
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