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  • 執筆者の写真Shunya.Asami

【Workshop 2011】「影をつかまえるフォトグラムワークショップ」モホイ=ナジ/インモーション展 @DIC川村記念美術館

「影をつかまえるフォトグラムワークショップ」レポート

去る9月24日(土)DIC川村記念美術館にて 「影をつかまえるフォトグラムワークショップ」を行いました。






会期中の「視覚の実験室 モホイ・ナジ/インモーション」展との関連企画として行われました。 5月の神奈川県立近代美術館・葉山館からの巡回に合わせ、WSも巡回させていただきました。

5月の神奈川県立近代美術館・葉山館でのWSとの相違点は、2点。

・天気に恵まれたので、野外でのワークを加えた点(野外展示も実現) ・プログラムの最後に対話型鑑賞を行った点(ファシリテーションは、林寿美学芸員)

5月と同様、WS開催においてひとつの目標としたのは、展覧会とワークショップの「つくる」・「みる」相互の活動を通して作品に迫れるのか?を問うてみたいというものでした。

このワークショップの特徴は、

○普段の日常生活にある素材の影を撮影することで、身近なところにある「美しさ」を再認識できること。

○特別な技術や環境を必要とせず、小さい子からお年配の方まで参加できること。

○感度の低い感光紙(コピアート)を用いることで、光と影、時間などを意識するだけでなく、目で身体で「映像」を体験できること

以上の3点です。

参加者は、21名。



ワークショップの時間は午前10時30分~午後4時。 当日は秋晴れの晴天で、ワークショップの進行プラン通りの運びとなりました。

今回は、野外展示にも挑戦!

自然散策路の木漏れ日と風をうけ作品が“そよそよ”動きました。




以下は詳しいワークショップの内容です。( )内は活動時間

1:自己紹介・活動紹介(10:30~10:40)

はじめに、ワークショップスタッフの自己紹介を行い、一日の流れを説明して展覧会場へ。




2:モホイ・ナジ展みる①(10:40~11:10)

「ナジの作品を見に行こう!」と展覧会場へ向かった。 神奈川県立近代美術館・葉山館と同様、モホイ・ナジの様々な実験的な試みを一望する。



3:制作①(11:15~12:15)

レクチャールームに戻り、事前に宿題にしていた素材を披露しながら参加者どうしの自己紹介。 今回の宿題は「自分の大切な〈思い出〉や〈記憶〉をひきだしてくれるもの」を持参するというもの。 海外に行って買ったおみやげや、友人から誕生日にもらったプレゼント、仕事で使っている工具、手作りのマフラー、アクセサリー、カボチャや落花生等、参加者の方々の思い入れのある素材の紹介を通して、初めてあった人どうしの距離がグッと縮まったような時間になった。【この効果は後で大きく影響する。】




自己紹介後には、思い入れの素材を使って作品制作。

素材と素材の重ね方や置き方を工夫する参加者。 露光時間は室内なので5分から10分と考え置くがゆっくりとできる環境の下、作品制作を行った。










アイロンで現像した後、制作した作品を並べ、自分たちの持ってきた素材の写り方(透明なもの、不透明なもの)やシャープに映っているものとそうでないものの差、ビーズの写り方、動いている素材のブレなどが話題となった。











お互いの作品を見合いながら写った形や、光と影についての話題が生まれはじめた。

光の量や角度、影をつくる素材の重ね方等の情報を交換し、ランチタイムとなった。


4:ランチタイム(12:15~13:15)

ランチタイムには、自然散策路でお弁当を広げて食べる参加者が多かった。その合間に落ち葉や木の実等を拾って午後の制作に繋げていた。

スタッフは、サプライズの準備。 午前中に参加者が制作した作品を集め、自然散策路の木と木を釣り糸で結んだラインに作品を並べて展示した。 こもれびが作品に落ちて風で揺れる空間を演出した。





5:制作②(13:15~14:30)

お腹もいっぱいになり午後の活動のスタート。 午前中の制作を経て、コピアートの特性や素材の写り方を把握した参加者。 「午後は美術館の周りの散策路に出て野外撮影をしよう!」と呼びかけ。レクチャールームをでて散策路に入ると「こもれびがきれいね」「光がつよそう」などといった言葉が聞こえ、制作へのモチベーションが高まる。 サプライズの準備をしていた場所にたどり着くと、自分たちの作品が木々の隙間を抜ける風に吹かれ‘そよそよ’と動いていた。 作品を見た参加者は「生きているみたい」「作品にまた光が当たっていておもしろい」「人工物でなく自然の素材の方が合いそう」など意見を交わしていた。

野外での撮影は、午前中に制作を行ったレクチャールームと異なり、光が強く、風もある。 その為、遮光板の使い方、風で紙が飛ばない工夫や露光時間を調べてみたりと野外での撮影方法を伝えた。




5秒~10秒ほどで適正の露光時間になった。木々の下でこの露光時間なので日なたはさらに短い露光時間であることを伝え、制作をスタート。

参加者はそれぞれ散策路を歩き、遮光板に影を写したり、素材を集め構成して新しい影をつくったり、木々のこもれびや足元の植物を撮影したり、自分達をモデルにして作品を制作していた。








午後の制作の時間は、各自、外で影を探す制作、室内でじっくり制作することを決めて制作が行われた。

作品は随時レクチャールームの壁面にリアルタイムに展示され、参加者どうしがそれぞれの作品への工夫を共有できるようにした。 中にはシリーズものの制作を行う参加者も現れ、数枚の作品が並ぶことで作品が深まるものもあった。










6:休憩~作品鑑賞会(14:35~15:00)

制作した作品を参加者全員で鑑賞した。 制作の時に工夫したことや面白かったこと、1日の感想などを一人ずつ聞いた。






・「室内の光と野外の光の差を感じた。野外はとても強い光ですぐに感光してしまい何度も失敗をした。けれど何度かチャレンジすることでコントロールできるようになった。それが嬉しかった。」 ・「一つの木を三枚のコピアートに分けて撮影した。いろいろな撮影の方法ができることが分かってまたやりたいと思った。」 ・「普段あまり意識していない光について意識が出来た。」 ・「友人と二人で何枚も共同制作をした。写真は記憶が残せるところがいい」など沢山のエピソードが語られた。


7:モホイ・ナジ展みる②「対話型鑑賞」(15:05~15:45)

午前中にみた企画展をもう一度みる。 今回は参加者と作品への意見を出し合い鑑賞していく「対話型鑑賞」という方法で進めた。 ファシリテーターは林寿美学芸員。

鑑賞した作品 (太字は公式カタログの出品リストによる記号) ・1《 風景 (オーブダの造船場の橋) 》(油彩画 74.0×97.0) Ⅰ-021 ・2《 無題 》(フォトグラムの複写 96.5×68.6) Ⅱ-041 ・3《 CH-6 》(油彩画 122.5×122.5) Ⅴ-003

「1」の作品では、「橋みたい」「山のよう」「工場かな」といった具体的なイメージが出された後、「空の色が緑で赤い光線の様 なものがあって不安な感じがする」「徐々に近代化していく感じ」等の意見が出された。

「2」の作品では、「渦巻」「金属が巻かれたところ」等の素材についてや「光が画面の上の方から当てている」等の制作時の様子や考えについて思いを巡らせていた。

「3」の作品では、「エネルギー」「太陽」「希望」「光と影」「熱い感じ」「光と光の重なり」「写真だけでなく絵画にも光の重なりや影への意識がある」等の意見が出た。






そして最後には、ライトスペースモデュレーターの動いている様子を鑑賞した。





林さんは、ワークショップ通して、普段行っている鑑賞の時と異なった点がいくつか見られ、「アートに近づいている」という言葉があった。 その言葉の実感には、大きく二つの要素があったと考えられる。

○鑑賞時の環境=連帯感 「ワークショップを一緒に行ったことで、普段作品鑑賞だけを行っている時に比べ、意見が出やすい雰囲気があったこと」 「人の意見を聞いて、自分の意見を考える素地がつくられていたこと」 「集中力が非常に高い状態で鑑賞に臨めたこと」

○作品への迫り 「作品から得られる抽象的なイメージが早い段階で出た、抽象的な思考が自然と生まれた。」 「素材の扱い方や制作の方法についての意見が出た」



8:1日のまとめ(15:45~16:00)

室内と野外の光の差、素材の持つ特性、時間について等 作品を制作する上で普段は意識をしない現象を意識し制作をしていた参加者がとても多かった。 また、ナジの作品を見て「どうやってつくっていて、何を考えていたのか」一緒に参加者と考える時間もあった。 参加者だけでなく、スタッフも「つくる」ことで「みること」が深まり、「みること」で「つくること」が深まっていたように感じられる。




●ワークショップを終えて

 今回のワークショップは参加者が会場に来る前から始まっていた。それは「宿題」の存在である。 参加者の持ってきた「自分の大切な〈思い出〉や〈記憶〉をひきだしてくれるもの」は、影の形やどのように作品をつくろうかなどの見通しを持って持参したものが多かった。それは、自己紹介の中での紹介でも、「船を中央において街を背景にしようと思います」などの意見からも事前に作品の構想をしていたことが分かる。さらに宿題の思いがけない効果は、自分の〈思い出〉や〈記憶〉を初対面の人と話すことによっていくらかの恥ずかしさはあるものの、秘密を共有したような雰囲気が場全体に生まれた。これはプログラムの最後の対話型鑑賞時、自分の意見を話す時の話しやすさに繋がっているように感じられ連帯感を生んだと考えられる。ワークショップはスタッフも参加者どうしも初対面の関係から時間を共有していく。制作を通して声を掛け合ったり、作品を見せ合ったりする中で共有間が生まれてくるが、自己紹介の段階からそれが生まれたことは大きな発見であった。  「対話型鑑賞」では、林さんの指摘にもあったように、作品を見て出された一見難しい意見、「夢」「希望」「絶望」「悲壮感」「期待」を次々と参加者が発表し、それをじっと聞いて頷いたり、意見に上乗せをしたり、反対意見を言ったりといったやりとりが行われた。前述した連帯感から怖がらず意見を出し、「その意見が出されたのはどうしてだろう?」「どのように考えたのだろう?」といった姿勢がとられていたことに驚いた。そういった意見の重なりから次第に作品を実感していく様子がみられた。  ワークショップの最後に、今回ワークショップを参加者の皆さんと行って自分が実感したことを話した。それは「フォトグラムがとても身体的であるということ」だ。どうしてそれを感じたのかというと、野外で露光オーバーになってしまった作品を沢山生み出してもなお、自分のイメージを追求し続ける参加者の姿、自分自身の一部を使い友人と影を構成し今日の記念の一枚を撮影している参加者の姿、風や光の様子を見定めながら撮影場所や露光時間を工夫している参加者の姿をみたからである。写真は今、シャッターを押せば撮れるし、すぐにその画像を見ることもできる。しかし、このフォトグラムでは、光を読み、露光時間を自分の中でカウントし、影をつくり、熱で現像し、何度かの失敗からイメージをつくり出す。感覚器官を研ぎ澄まして制作することを楽しむ制作者をみて、私はとても「身体的」だな。と感じた。5月に国立近代美術館で同様のワークショップを行ったときの参加者の意見「Tシャツの跡が腕にくっきり写っちゃいました。私が感光紙になっちゃいました。」といった言葉が思い出された。  また、プログラムの構成や環境整備等は日頃の授業の中で工夫している点を導入している。プログラムの構成では初めて合う人たち同士のアイスブレイクから始り、扱う感光紙の特性やその扱い方について、参加者の方が段階的に実感し自分で扱えるようにしている。最後には作品制作だけで終わらず鑑賞の時間も設定し、様々な考え方やアイデアを共有でき、一人では味わう事の出来ない時間をつくりたいと考えた。また環境設備では簡単な表示(サイン)を示したり、制作の合間に見られる参考作品の用意、道具の位置や怪我の防止などを常に確認できるよう配慮した。

●参加者のアンケートから 今回は冒頭に記した「展覧会とワークショップの「つくる」・「みる」相互の活動を通して作品に迫れるのか?」を検証したいと思い、アンケートを実施させていただいた。【回答者数21名・回収率100%】

質問1:ワークショップで面白かったところは何ですか?【2つ○をつけてください】 A:影をみつけるところ【8名】 B:影を構成するところ【8名】 C:現像するところ【10名】 D:光について考えるところ【5名】 E:時間について考えるところ【4名】 G:思い出の品や身近なもので作品がつくれるところ【5名】 F:その他【2名】 ・熱で仕上げるところ(最後のさじ加減まで楽しめました) ・アナログなところ

質問2:ワークショップを通して展示作品の見方は変わりましたか? 「はい」【17名】・「いいえ」【3名】 未回答【1名】

「はい」の理由 ・みんなでよく考えて、意けんをだして、「こういう見方もあるんだな。」と感じたので、今度からいろいろ考えてみようと思ったからです。

・やってみて作品を見ることと知らずに見る事の違い

・自分の作品には反省点が多いが、他の方の作品のアイデアやインスピレーション、制作方法などとても興味深かった。

・モホイ=ナジが制作しているところを想像してしまった。

・美大生の時にフォトグラムをやって好きだったマン=レイや、モホイ=ナジの見方が変わりました。それを思い出したという意味と観た作品がオリジナルという意味で変わりました。

・光の量と時間の経過で影像が変わってくる事を体験できたことで作品に親近感が持てた。対話型感想で他の人の意見が参考になった。

・つくってみたら作者の気持ちが分かるような気がしたから

・とても作品が身近に感じました。自身の作ったものに対して工夫を加える参考にしたり、通常の見方とは変わりますね。

・つくってみたら作者の気持ちがわかったから。

・フォトグラムに対する理解と作品、特に光と影を構成的に画面にどう入れた上で表現しているか、作家の立場で考えてみる楽しみが出来た気がする。

・作り方を知ったので親しみを感じる。

・美術館も写真展も自分の好みの作品にばかり張り付いていましたが、今日の意見発表を受けて、なるべく多くの作品を読み解きながら見ていこうと思いました。

・重なり合っている部分の影のでき方を考えるようになった。立体感を出すための光の当て方、量を気にしてみるようになった。

・光を再現する方法について思考しながら展示作品を見ると、より身近に作品が感じられた。

・実際に作ってみてどういう風にこの作品がつくられたのかな?とか光にこだわったという事を聞いて見方が変わりました。

・実験的なイメージが強いナジの作品に、人間的な部分が感じられた。

・光があり、影が出来る事で物の姿がみえること(当たり前の事)に改めて気付く事が出来たから。

「いいえ」の理由 ・理由は分かりません。もしも変わらなくてはいけなかったならごめんなさい。

・やっぱり私には抽象表現はよくわからん…と思いました。

アンケートにはこのWSの課題と展望が写っていると感じました。今後もよりよい時間を創造できるようにしていきたいと思います。

最後になりましたが、今回のワークショップを行うにあたり、1日のプログラムに最後まで参加いただいた参加者の皆様、お世話になったDIC川村記念美術館の林さんを始め皆様に深く御礼を申し上げます。ありがとうございました。







■WS.DATA

日時:9月24 日(土) 午前10 時30分ー午後4 時 天候:晴れ 会場:DIC川村記念美術館 レクチャールーム、中庭、自然散策路 スタッフ:浅見俊哉・浅沼奨・大山香里・小宮貴史 記録映像:浅沼奨 対象:子ども( 小学生以上) から大人まで 参加者: 21 名

○視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/201111_moholy.html




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